34. 恐怖でしつけをしても意味がないどころか逆効果(スケアード・ストレート)

運転免許の更新のときの講習で、スピード違反で大事故を起こして大破した自動車の写真を見たことがある方がいるかもしれません。このように、「スピードを出しすぎると、大惨事になる可能性が高いのでスピード制限は守りましょう」と、衝撃的なシーンを見せたりしてスピード違反を予防するような教育方法を、
「スケアード・ストレート」(Scared Straight)
といいます。
1990年頃までは、アメリカ合衆国において、非行少年を刑務所へ連れていき、囚人と会話をして、「犯罪を起こすと、刑務所に入れられて、悲惨な目にあいますよ」と教えて、非行少年が再び犯罪を起こさないようにするという「スケアード・ストレート」(Scared Straight)プログラムが行われていました。
その効果を調べるために、いくつかのRCT(ランダム化比較試験)が行われており、2013年、Petrosino(ペトロシノ)氏らは、それまでのRCTをまとめてメタアナリシスを行い、報告しました。
具体的には、2011年までの研究で、
(1)17歳以下の、非行少年(少年裁判所によって公式に裁定または有罪判決を受けた)または非行前少年(問題を抱えているが非行として正式に裁定されていない子供)
(2)刑務所への組織的な訪問を含む「スケアード・ストレート」(怖がらせて犯罪を思いとどまらせる治療)プログラムを行った群と、行わなかった群で、再犯罪率(逮捕、有罪判決、警察との接触、または自己申告による犯罪)に違いが出るか
を報告している7個の試験(無作為化または準無作為化試験)に対して、非行少年に対する「スケアードストレート」治療が、「再犯率」に及ぼす効果についてメタアナリシスを行いました。
その結果、「スケアードストレート」治療群の方が、治療を行わなかったグループ(コントロール群)と比べて、再び犯罪または非行を起こす確率が有意に高くなる(1.6〜1.7倍に上昇)ことが分かりました。
以上のことから、
「非行少年を刑務所に連れて行って、囚人と会話して、怖がらせて犯罪を思いとどまらせる治療は、逆効果」
(犯罪をおかしてほしくなければ、怖がらせ治療をしてはいけない)
ことが分かります。これを、子どもの「しつけ」に応用するのであれば、子どもに「何か」をしつけたいときは、
「恐怖でしつけをするのは逆効果」
(「こんなことをしたら鬼さんにおへそを取られちゃうよ!」と言ってしつけるのは逆効果)
かもしれません。
(対案としては、例えば、こどもに論理的に説明して、子ども自身に納得してもらったうえで、適切な行動ををとってもらうなどがよいかもしれません。)
参考文献
- Anthony Petrosino, ‘Scared Straight’ and other juvenile awareness programs for preventing juvenile delinquency, 2013 (エビデンスレベル★★★★★)
- 少年非行を防止するための「スケアード・ストレート」等の少年の自覚を促すプログラム