エビデンス

40.子どもから大人になるにつれて、知能への遺伝による影響が増加する

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出典:能力はどのように遺伝するのか「生まれつき」と「努力」のあいだ(2023年)

知能の遺伝率(いでんりつ)とは、生まれ持ったDNAが、どの程度、知能に影響を与えるのかということです。

知能への遺伝の影響は、直感的には、生まれたばかりよりも、成長するにつれてさまざまな環境でさまざまな経験をするので、子どもよりも、大人になってからの方が遺伝の影響がすくないと思う人が多いと思います。

しかし、知能に関する限り、実際はその逆ということが、行動遺伝学に関する複数の論文で主張主張されています。以下に、そのうちの一つの論文をご紹介します。

方法

出典:行動遺伝学が教える 学力、性格と「遺伝」のホント(小栗正嗣, 2019)

行動遺伝学では、「双生児法」といって、一卵性双生児(DNAが100%同じ)と二卵性双生児(DNAが50%同じ)の形質(例えば、知能(IQ)テストの点数)の類似度(相関係数)を比較することにより、形質(例:IQ)への遺伝(DNA)の影響度を計算します。

形質(例:IQ)への遺伝(DNA)の影響度を、「遺伝率」と言います。

知能gの遺伝率は、約50%であるということが、様々な研究から知られていました。今回、Haworth(ハワース)らは、年齢によって知能gの遺伝率が変化するかを調べるために、6地域3か国の、11000組の双子について研究を行いました。

また、それぞれにおいて、

  • 遺伝率(生まれながらのものの寄与):A
  • 共有環境(家族で共有される環境要因):C
  • 非共有環境(学校・友人など、家庭環境以外の環境要因):E

を、年齢別に計算しました。年齢の分け方は以下のように行いました。

  1. 小児期グループの平均年齢は 9 歳 (範囲 = 4 ~ 10 歳)。
  2. 青年期グループの平均年齢は 12 歳 (範囲 = 11 ~ 13歳)。
  3. 若年成人グループの平均年齢は 17 歳 (範囲 = 14 ~ 34歳)

なお、34歳以上については、サンプル数が少なすぎたため、統計に入れませんでした。

結果

双生児の知能の相関係数(95%信頼区間)、出典:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2889158/ を一部改変

地域別の知能gの相関係数の結果は、上の表のようになりました。

例えば、米国オハイオ州での研究では、一卵性双生児(MZ)121組と、二卵性双生児(DZ)171組のIQテストを行い、それぞれの相関係数が、MZで0.76、DZで0.55となっています。このことから、知能gの遺伝率は、

(0.76-0.55)*2 =0.42

つまり、知能gの遺伝率は42%という計算になります。

出典:能力はどのように遺伝するのか「生まれつき」と「努力」のあいだ(2023年)

年齢別に遺伝率を計算した結果のグラフは、上図のようになり、児童期、青年期、成人期初期で、知能の遺伝率に有意差が認められました。つまり、

知能gの遺伝率は、小児期 (9 歳) の 41% から青年期 (12 歳) の 55%、若年成人期 (17 歳) の 66% まで、著しく直線的に増加した

という結果になりました。

年齢別の双生児の知能の相関係数(95%信頼区間)、出典:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2889158/ を一部改変

考察

知能gが高くなる素質(DNA)を持った子供は、成長するにつれて、遺伝的傾向に基づいて、自分の経験を選択し、修正し、環境を変えて知能が高くなるようになる可能性が考えられます。

しかし、今回のような研究では、具体的にどんな遺伝子や、環境が影響を及ぼしているのかはわかりません。

どんな遺伝子が知能に影響を及ぼすのかについては、GWAS(Genome-Wide Association Study)解析により、数千個の遺伝子が候補として挙げられていますが、ポリジェニックスコアといって、一つ一つの遺伝子多型の影響は非常に少ないそうですし、知能が上がると考えられている多型は、同時に、統合失調症の発症率を上げるということもあり、2023年現在、まだ研究途上だそうです。

また、家族の共有環境であっても、親のしつけなのか、声掛けなのか、何が知能に影響するのか、その中身は分かりません。

いずれにしても、親が子どもに、無理に詰め込み勉強をさせても、9歳(41%)から12歳(55%)、そして17歳(66%)になるころには、子ども自身のDNA(受精後に変えることは、ほぼ、できません。)の影響が、子ども自身の知能に強く出てくることを踏まえて、子どもの教育というものを考えてもよいのかなと、思いました。

参考文献

Haworth CM et al., The heritability of general cognitive ability increases linearly from childhood to young adulthood. Mol Psychiatry. 2010 Nov;15(11):1112-20. doi: 10.1038/mp.2009.55. Epub 2009 Jun 2. PMID: 19488046; PMCID: PMC2889158. (エビデンスレベル★★☆☆☆)

  • 能力はどのように遺伝するのか「生まれつき」と「努力」のあいだ(2023年)
  • 行動遺伝学が教える 学力、性格と「遺伝」のホント(週刊ダイヤモンド特集BOOKS Vol.401)(2019年)
  • 運は遺伝する 行動遺伝学が教える「成功法則」(2023年)
  • 遺伝と平等―人生の成り行きは変えられる―(2023年)
ABOUT ME
えびちゃん
えびちゃん
6歳と3歳の二児の母。 夫婦ともに東大理三出身、東大医学博士。 「エビデンスに基づく教育」で、親も子どももハッピーになれる子育てを応援します。
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