33. 暴言を受け続けると子どもの脳の聴覚野が変形する

幼少期に親の言葉による攻撃 (parental verbal aggression, PVA) にさらされると、大人になってから、気分障害や不安障害といった精神病になるリスクが高まることが知られています。また、幼少期に親から虐待を受けると、通常よりも脳が委縮してしまうことが知られています。
2009年、友田明美らは、言葉による虐待(暴言虐待)で子どもの脳の聴覚野(ちょうかくや)が変形する(脳にダメージを受ける)ことを報告しました。
聴覚野は、大脳の横側(側頭葉、そくとうよう)の一部であり、他人の言葉を理解したり、会話することなど、コミュニケーションの鍵となる聴覚性の言語中枢(ウェルニッケ野)がある場所です。
言葉による虐待(暴言虐待)とは、親から「ゴミ」と呼ばれたり,「お前なんか生まれてこなければよかった」というような言葉を浴びせられたりするなど,物心ついたころから暴言による虐待のことを言います。
方法
以下の2グループ合計40人の頭部MRI (エムアールアイ)検査を行い、脳の各部位の容積を調べました。
1. PVA 群(言葉による虐待を受けた群):幼児期に継続的に暴言虐待を受けた過去を持つ 2人の被験者(18〜25歳)
2. 対照群(コントロール群):上記と同等の年齢・性別の精神科疾患の既往の無い 19人のコントロール
年齢、性別、親の教育年数、経済的充足感、全セグメントのGMV(gray matter volume、灰白質の体積)による潜在的交絡効果をモデル化し、それらに起因する差異を分析から除外しました。
結果
以下の3つのことが分かりました。
(1)PVA群では、コントロール群と比較して、左脳の聴覚野の一部である上側頭回灰白質の容積が平均14.1パーセントも増加していることがわかりました。暴言の程度が深刻であるほど,影響は大きかった。
(2)PVAS(parental verbal aggression scale、親から子への暴言の程度) のスコアによる検討では、母親(β=.54, p<.0001),父親(β=.30, p<.02)の双方からの暴言の程度が強いほど、左上側頭回灰白質容積が増加していました。
(3)両親の学歴が高いほど、左上側頭回灰白質容積は、より小さくなることがわかりました(β=−.577, p<.0001)
考察
子供の頃に「言葉の暴力」を受けると、聴覚野の一部の容積が大きくなる理由として、友田明美らは以下のように解釈しています。
1)脳発達の観点から見ると、生後1年目までは脳のニューロン同士の連結(シナプス)はたくさん、むしろ過剰に作られる
2)生後1年目から思春期さらには若年成人の頃までは、過剰に作られたシナプス(ニューロン同士の連結)に、適切な刈り込み(pruning、プルーニング)が行われ,神経伝達の効率が向上するようになる。
3)ところが子ども時代に言葉の暴力を繰り返し浴びることによって、シナプスの刈り込みが進まず、雑木林のような状態になってしまうのではないだろうか。人の話を聞きとったり会話したりする際に、その分、余計な負荷がかかることが考えられた。
上記の解釈が正しいかどうかは分かりませんが、脳を変形させてしまう「言葉の暴力」は、避けた方がよさそうです。
参考文献
Tomoda A, Exposure to Parental Verbal Abuse is Associated with Increased Gray Matter Volume in Superior Temporal Gyrus, 2011 (エビデンスレベル★★☆☆☆)