エビデンス

32. 体罰により、子どもの脳が萎縮する

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出典:友田明美「不適切な養育と子どもの依存」(日本小児禁煙研究会雑誌、2016年)

2016年、友田明美らは、激しい体罰により、子どもの脳が萎縮することを報告しました。

方法


小児期の病歴、発達、症状に関するアンケートで、1,455 人のボランティアに対してスクリーニング、さらに3回の訪問を経て、以下の2グループ合計45人の頭部MRI 検査を行い、脳の各部位の容積を調べました。
 
1. HCP 群(厳しい体罰を経験した群):幼児期に 体罰を受けた歴史を持つ 23 人の若年成人 (男性 15 人、女性 8 人、平均年齢 21.7 歳、SD 2.2 歳)

2. 対照群(コントロール群):精神科疾患の既往の無い 22 人の若年成人 (男性 6 人、女性 16 人、平均年齢 21.7 歳、SD 1.8 歳) 。虐待歴、トラウマ(精神的外傷)、厳しいまたは軽度の体罰のいずれの既往無し。
 
年齢、性別、PVAS(parental verbal aggression scale、親から子への暴言の程度) のスコア、親の教育年数、経済的充足感、全セグメントのGMV(gray matter volume、灰白質の体積)による潜在的交絡効果をモデル化し、それらに起因する差異を分析から除外しました。

結果

以下の3つのことが分かりました。
 
1. HCP(体罰)群の脳は、コントロール群と比べて、右内側前頭回 (内側前頭前皮質、MPFC) の GMV(灰白質の体積)が平均19.1%小さかった(p= 0.037, 有意差あり)(この領域は前頭前野の一部で、感情や思考をコントロールし、犯罪抑制力に関わっている。)。
2. HCP(体罰)群の脳の方が、左内側前頭回 (背外側前頭前皮質、DLPFC) の GMV(灰白質の体積)平均 14.5% 小さかった(p= 0.015)(この領域は物事を認知する働きを持つ)。
3. HCP(体罰)群の脳の方が、右前帯状回の GMV(灰白質の体積)平均 16.9% 小さかった(p=< 0.001)(この領域は集中力・意思決定・共感などに関わる)。
 
以上のことから、子どもの頃に体罰を受けると、大人になったときに、「感情や思考をコントロールする脳の一部がや、集中力・意思決定・共感に関わる脳の一部が委縮する(正常な人と比べて容積が小さくなってしまう)」ことが分かりました。
(なお、統計解析の時に考慮したとはいえ、今回の2群では、性別の比率、親の教育レベル、経済状況にグループ間で大きな違いがあったという限界はあります。)
 
体罰によって将来、子どもの脳が委縮してしまうのであれば、体罰は避けた方がよさそうです。

参考文献

友田明美, 不適切な養育と子どもの依存, 2016 (エビデンスレベル★☆☆☆☆)

Tomoda A, Reduced prefrontal cortical gray matter volume in young adults exposed to harsh corporal punishment., 2009 (エビデンスレベル★★☆☆☆)

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えびちゃん
えびちゃん
6歳と3歳の二児の母。 夫婦ともに東大理三出身、東大医学博士。 「エビデンスに基づく教育」で、親も子どももハッピーになれる子育てを応援します。
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