エビデンス

31. 体罰は百害あって一利なし(メタアナリシス)

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出典:厚生労働省パンフレット「子どもを健やかに育むために~愛の鞭ゼロ作戦~」(2017年)

体罰は、学校教育法(1947年)第11条において禁止されており、教員は、児童生徒への指導に当たり、いかなる場合も体罰を行ってはならないとされています。昭和の時代は、それを問題視する人が少なかったようで。筆者の通った学校で体罰が行われていました。しかし体罰事故死が相次ぎ、訴訟も増えていった事を背景に体罰が社会問題化し、2000年以降は特に、体罰を行った教員は、職務上の義務違反として、懲戒処分を受けることが多くなり、学校での体罰は激減しているようです。また、2020年より、親による体罰も法律で禁止されました(児童福祉法、児童虐待防止法)。
 
なぜ体罰が法律で禁止されるのかというと、いくつのもの実験によって「体罰は百害あって一利なし」であることが報告されているからだと思われます。

方法

2016年、Gershoffらは、160,927人(約16万人)の子どもを対象とした、2014年以前に報告された75件の研究を使用して、メタアナリシスを行いました。

子供の時に『お尻たたき』という軽い体罰を受けることが、将来、下記の17の『有害な結果』と関連するかどうかを調べました[1]。
 
1. 即座の反抗
2. 低い道徳的内面化
3. 子供の攻撃性
4. 子どもの反社会的行為
5. 子どもの外在化行動の問題
6. 子どもの内在化行動の問題
7. 子どものメンタルヘルスの問題
8. 子供のアルコールまたは薬物乱用
9. 負の親子関係
10. 認知能力の障害
11. 低い自己評価
12. 自主規制が少ない
13. 身体的虐待の被害者
14. 大人の反社会的行為
15. 大人のメンタルヘルスの問題
16. 成人のアルコールまたは薬物乱用
17. 体罰に対する大人のサポート

結果

その結果、『お尻たたき』という軽い体罰も下記の13の有害な結果と関連することが判明しました。
 
子供の頃、親が『お尻たたき』を行うと、お尻叩きを去れなかった場合と比較して、以下のリスクが有意に上昇していました。
 
1. 道徳的内面化の低下
2. 攻撃性
3. 反社会的行動
4. 外在化行動の問題
5. 内在化行動の問題
6. メンタルヘルスの問題
7. 否定的な親子関係
8. 認知能力の低下(学業成績の低下)
9. 自尊心の低下
10. 親からの身体的虐待
 
また、大人になったときに、過去に『お尻叩き』をされた経験があると、されなかった場合と比較して、以下のリスクが有意に上昇していました。
 
1. 成人の反社会的行動
2. 成人の精神的健康問題
3. 『お尻叩き』に対する肯定的な態度

考察

以上のことから、『お尻たたき』という軽い体罰でさえも、「百害あって一利なし」という結論となりました。
 
昭和の時代、ほっぺをつねられたり、手をつねられたり、お尻叩きなどは日常茶飯事だったし、筆者も『しつけ』という名の軽い体罰は受けた経験があるので、自分も子どものことを叩くのは『愛のムチ』で、『子供のために』仕方のないことなのかと思っていました。しかし、2020年に『親による子供への体罰禁止法』が施行され(児童福祉法、児童虐待防止法)、びっくりしました。2017年までには、体罰に関する100以上のRCT(ランダム化比較試験)が行われ、この論文のように、『体罰は子供の将来に悪影響を与える』という結果のメタアナリシスの論文がいくつも発表されているとのことです。これらの論文を読んで、
 
愛のムチなど存在しないので、今すぐ子どもへの体罰を中止するべき
 
と、考えを改めました。

頭では分かっていても、実際に子育てをしていると、自分の子どもが、すごく悪いことをしていて(問題行動)、今すぐにやめさせなければならないけど、どうしても親の言うことを聞かないなどの状況で、叩いたりしたくなってしまうことが日常茶飯事だと思います。
 
それでも、自分の子供の将来(体罰をすると、将来、反社会的行動を起こしたり、自尊心が低下し、テストの点数が下がる可能性が上昇する)のことを考えると、子どもを叩いたりつねったりする気持ちをグッと抑えた方が、良いようです。(そんなの無理!という叫びが、自分自身の心の中からも聞こえます。)

参考文献

  • Gershoff ET, Grogan-Kaylor A. Spanking and child outcomes: Old controversies and new meta-analyses. J Fam Psychol. 2016 (エビデンスレベル★★★★★)

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えびちゃん
えびちゃん
6歳と3歳の二児の母。 夫婦ともに東大理三出身、東大医学博士。 「エビデンスに基づく教育」で、親も子どももハッピーになれる子育てを応援します。
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